私たちは日頃、四条烏丸にある「アートコミュニティスペースKAIKA」というところを主な
アトリエとして、日々クリエイションをしています。ソノノチ旗揚げ当初から、実に15作品
以上に渡り、様々な稽古のため使用させて頂きました。
メンバーにとって非常に肌に馴染んだ稽古場であり、現在のクリエイションの主な拠点と言えます。
しかし、今年私達は劇場を飛び出し、町全体を舞台として遠景から眺めるように鑑賞する新しい
タイプの作品をつくることに挑戦しており、稽古方法一つとっても、いくつかの課題が出てきました。
そこで生まれた工夫についてご紹介します。

 
(KAIKAでの稽古の様子)


1)本番通りの、実寸サイズの稽古場を用意できない

実際の会場(原泉地区)において、観客のいる位置からパフォーマーのいる場所までの
距離が、最も近いところで50〜150メートル、遠いところでは300〜400メートルありました。

現地を想定した稽古をするべく、京都市内、主に桂川周辺などいくつかの場所を
リサーチした結果、嵐山東公園(京都市西京区)で日中は稽古をすることにしました。
この場所は、大きなグランドとその脇の川沿いに小高くなった道路があることで、
実際の会場のように観客が風景とパフォーマーを見下ろすような体勢がとれることと、
この周辺の風景の「人と道と自然の比率」が、本番の風景に近いことが選んだ理由です。

 
(大阪や京都の、広い河川敷や公園などを探しては稽古、探しては稽古の日々)


(嵐山東公園での稽古の様子)

 

2)本番通りの観客の視点が再現できない



「風景によせて2020」は、茶畑の丘の上の赤い椅子(写真参照)に観客が腰掛け、そこから
見下ろす風景を、どこからともなく流れてくる音楽を聴きながらぼんやりと眺める作品です。
遠征地での制作において、その場所で観客が感じるものや心地をどのように検証できるのか
という部分で、何かしらの工夫が必要でした。

今回は夜間の稽古が多かったのですが、暗くなると屋外で稽古をすることが難しいため、
どうしても室内になってしまいます。そこで、なんとか屋内に、本番に近い鑑賞状況を再現
できないかという話になりました。いろいろ試した中で感触の良かったものとしては、
現地で稽古した映像を、ちょうど目の高さに合わせた角度に投射して、おおよそ本番と同じ視界
で観ることができるようにするという方法です。しかしながら、映像には枠(フレーム)が
あるため、どうしても特定の画角で切り取られてしまい、全く同じように鑑賞することは
できませんでした。(今後、VRの使用なども検討に入ってくるのかなと思います。)

しかしながら、これで少なくとも、実際に見ていた風景を稽古場でも、作品を描き出す
キャンバスとして、とらえることができるようになりました。

3)分かってはいたけれど、稽古中の声が聞こえない
これまで私たちは、パフォーマーと演出が、向き合うようにして稽古をしてきました。
稽古時のパフォーマーと演出のあいだの距離は、およそ2〜3メートルです。
しかし、今回はその距離が100メートル以上になるので、分かってはいたのですが
話す声がまったく届かず聞こえずで、稽古が非常に困難でした。
(それでもなんとかコミュニケーションをとろうと大声で叫びながら稽古をしていたら、
1日で声ががらがらになってしまいました。)

例えば両手でする大まかなボディランゲージ(任意の方向に移動してほしい意図を
伝える等)は伝わっても、細かいニュアンスを伝えるには限界があります。
そこで、LINE通話をつなぎつつ、稽古をすることになりました。
インターネット通話で複数人が意思疎通をしなければならないので、最初こそ話し出しが
ぶつかってしまったり、説明が行き違ったりもしたのですが、徐々にこのやり方にメンバー
たちが順応し、本番もこの方法でコミュニケーションをすることになりました。

<遠距離での稽古でポイントになりそうなこと>
①イヤホンはコードレスのものを使用する。
コードがあると、身体の演技に干渉することがあるからです。

②場所・地点に共通の名称をつけて全員で共有する。
今回の作品では、「大森・小森」「恐竜」「上手の茂み」などの呼び名が生まれました。

③特に複数のパフォーマーが関わるシーンにおいて、演出はなるべくどのように
見えるかを、
客観的に、具体的にフィードバックする。
パフォーマーにとっては、何がどういうふうに見えているのか分からない=演目でやっている
ことの体感と客観が一致しないことが多いためです。
(例:Aさんが動作をはじめるのが、
Bさんに比べて2秒ほど早かったです。)

④(例えば全員で同じ動きをするようなときに)通話を通して動きのきっかけを出す
シーンと、
パフォーマー同士が生声できっかけを出すシーンを使い分ける。
また通話時は、電波状況によっては声の聞こえ方に時差が出るものという前提で演出します。

⑤小道具は使えるものが限られる。

距離によっては、手元で何かをしていても物理的に見えない場合が多かったです。


⑥身体の動作を、ずいぶん大きめにする。
パフォーマーが十分動いているつもりでも、遠くから観ることで、同じ動きでも
こじんまりと縮こまって見える特徴がありました。客席から見たときに、どのように
見えるのかは、(2)に記載した方法でパフォーマーにフィードバックしました。

また随時、追加していきたいと思います。